この記事でわかること
- 政府が進める「生活援助の保険外サービス化」とは何か
- 訪問介護現場でこの制度改正がどんな影響を与えるのか
- 利用者さんにとって何が変わるのか
- 訪問介護事業所の経営がどうなるのか
- 私たち介護職の仕事はどう変わるのか
ここ数ヶ月、介護業界でかなり大きな話題になっているニュースがあります。政府が「生活援助」を介護保険の枠外に出そうとしているという動きです。
正直に言うと、現場で働く私たちは、このニュースを聞いたときにざわざわした感覚を覚えました。なぜなら、このテーマは単なる「新しい資格ができる」という話ではなくて、訪問介護という仕事の根幹に関わる話だからです。
私自身、グループホームから訪問介護に転向してもう数年が経ちますが、この仕事を通じて見えてきたことがあります。今日はそれを率直にお話ししたいと思います。
訪問介護の「生活援助」って何なのか
まず、訪問介護の仕事は大きく分けて2つあるんです。
身体介護と生活援助です。
身体介護というのは、利用者さんの身体に直接触れるサービスです。お風呂の介助、トイレの介助、おむつ交換、着替えの手伝い……こうした直接的なケアですね。介護保険が適用されるので、利用者さんは1割~3割程度の負担で利用できます。
一方の生活援助は、調理、洗濯、掃除、買い物……生活全般のサポートです。こちらも介護保険が適用されていて、やはり利用者さんの負担は少ないわけです。
実は、この両方の業務で訪問介護事業所は成り立っているんです。でもここが重要なポイント——生活援助の割合の方が実は高いんですよ。
「保険外サービス化」が何を意味しているのか
政府の動きをざっくり説明すると、こういうことです。
2027年をめどに、生活援助を介護保険の対象外にして、民間の「保険外サービス」として展開していく。そのための新しい国家資格も作ろうと。
聞こえは良いかもしれません。「サービスの質を向上させる」とか「プロフェッショナルを育成する」とか……。でも、現場にいると、ちょっと違う景色が見えるんです。
保険外になるということは、利用者さんの負担が10倍になるということです。
今は介護保険で1割~3割負担。でも保険外になると、全額自己負担。つまり、100円の掃除サービスが1000円になる、そういうイメージです。
私の訪問先でも、毎週火曜日に「週1回の掃除の手伝いをお願いしたい」という利用者さんがいます。今は月に約4000円程度の負担で済んでいる。でも保険外になったら、月に40000円です。
皆さんなら、どう選びますか?
現場で見えている「空白地帯」の問題
グループホーム時代も含めて、介護の現場で見えてくるのは、生活援助の重要性です。
身体介護はできなくても、「誰かが定期的に来てくれて、家の中を片付けてくれる」「ご飯を一緒に作ってくれる」——これだけで、利用者さんの生活の質って大きく変わるんです。
特に一人暮らしの高齢者にとってはそうです。掃除ができない、調理が負担、買い物に行けない……こうした「ちょっとしたこと」がしんどくなると、家の中はどんどん荒れていきます。栄養も落ちます。引きこもりになります。
生活援助があるから、その人の生活そのものが保たれている。これ、本当に大切なんです。
それが「保険外」になったら、使える人と使えない人で、すごく大きな差が生まれます。経済的に余裕がある高齢者は何も困りません。民間の家事代行サービスを使えばいいから。
でも、年金が少ない、貯金がない、そういう人たちは、この生活援助が消えてしまう。その先に何が待っているのか……同じ50代として、老後について考える私たちなら、薄々感じ取れると思います。
訪問介護事業所はどうなるのか
正直なところ、小規模な訪問介護事業所の経営は、かなり厳しくなる可能性があります。
なぜなら、事業所全体の売上の多くが生活援助で成り立っているから。それが保険外に移行したら、事業所の収入が激減するんです。
「じゃあ民間サービスに転換すればいいじゃないか」という意見もあるでしょう。でも、そう簡単ではありません。
介護保険は国が価格を統制しているので、経営の予測がある程度立てやすい。でも保険外サービスは完全に市場競争です。高い値段をつければ利用者が来ない。安い値段ならスタッフの給料が下がる。競争の中で、質を保ちながら経営を続けるのは、本当に難しい。
それに、スタッフの確保も問題です。介護職の給料はもともと低いのに、さらに不安定な雇用になったら、人は集まりません。
介護職である私たちの立場も変わる
そして、これは他人事ではなく、介護職である私たちの仕事にも直結します。
生活援助の仕事がなくなれば、訪問介護事業所の仕事量そのものが減ります。雇用が減る。給料も減る。シフトも減る。
既に介護業界の給料は低いのに、さらに不安定になっていく。
私自身、グループホームから訪問介護に転向したのは、体力的な理由もありました。でも同時に、訪問介護なら、自分のペースで働けるメリットがあったんです。今のところはありがたいことに仕事に困っていませんが、この制度が実行されたら……。
同世代の皆さんも感じていると思いますが、老後資金への不安ってありますよね。私だって「60代、70代になったときに、どうやって生活していくか」って考えます。今のうちに何とか貯蓄を増やしたいって思う。その矢先に、現在の仕事の収入が減るかもしれない……そういう不安が生まれるわけです。
「保険外サービス化」は誰のための改革か
政府の説明では、こう言っています。
「仕事と介護の両立が困難になっている人が増えている。その層を支援するために、保険外で民間の家事支援サービスを充実させる」と。
それ自体は、確かに理解できます。働き盛りの人が親の介護で仕事を辞めるっていうのは、個人にとっても社会にとっても問題だから。
でも、本当にそれが目的なんでしょうか?
私の読み方は少し違います。
政府の本音は、おそらく「介護保険の負担を減らしたい」ということではないかと思うんです。高齢化が進むにつれて、介護保険の費用は増え続けています。その財源をどうするか……という国家レベルの問題がある。
その解決策として、「生活援助」という、比較的安いサービスを保険から外して、民間に任せる。そうすれば、国の支出は減ります。
利用者さんの自己負担は増えますが、それは「自己責任」として処理する。そういう構図に見えるんです。
実際、現場ではどう感じるか
正直に言うと、私たち訪問介護のスタッフは、この制度改正に対して「これはマズい」という感覚を持っています。
某有名な介護情報サイトがサーバーダウンするほど、この話題に対する関心が高いんです。それだけ、業界全体が危機感を感じているということです。
実務的には、2027年までにどうするか、訪問介護事業所は戦略を立てなきゃいけません。
- 保険内の身体介護に特化するのか
- 保険外の民間サービスに転換するのか
- 両方を並行するのか
事業所によって、選択肢は違うと思います。でも、どの道を選んでも、現在のような形態での経営は難しくなりそうです。
利用者さんにとって本当に「いい制度」なのか
制度改正の理屈はわかります。でも、実装してみたときに、本当に利用者さんの生活が良くなるのかは、別の話です。
私が見てきた利用者さんの実例を挙げるなら……
Aさんは75歳の一人暮らし。身体は元気だけど、視力が悪くなって細かい作業ができない。週2回、私たちが調理を手伝うことで、毎日自分で食事を作れるようになった。栄養状態も良い。
Bさんは80歳。両膝が痛くて立ち上がるのが大変。月1回の定期的な掃除で、落ちた物を拾う手間が減った。転倒のリスクも下がった。
こういう人たちが、「保険外になったから、今後はサービスを使わない」という選択肢を選んだら?
生活の質は確実に落ちます。転倒のリスクは上がります。栄養状態は悪くなるかもしれません。その先には、さらに介護度が上がって、身体介護が増えるというパラドックスまで起こりうるんです。
FAQ——よくある質問
Q1. 生活援助が保険外になると、本当に利用できなくなるのか?
A. すべての人ではありませんが、経済的に厳しい利用者さんの多くは利用を控えることになると予想されます。月に数千円の負担が、月に数万円になったら……想像してみてください。特に年金生活の高齢者にとっては、大きな決断になります。
Q2. 民間の家事代行サービスを使えばいいのでは?
A. 確かに、民間の家事代行サービスもあります。ただし、介護が必要な状態の人向けに設計されていません。また、価格帯も高く、品質のばらつきもあります。介護保険のような統一基準がないので、サービスの質が保証されません。
Q3. 訪問介護事業所は保険外サービスに完全に転換するのか?
A. 事業所によって対応は分かれると思います。身体介護に特化する事業所、保険外サービスに転換する事業所、両方を並行する事業所……2027年に向けて、各事業所が戦略を立てています。
Q4. 私たち介護職の給料は下がるのか?
A. 可能性は高いです。事業所の収入が減れば、当然スタッフの給料や安定性に影響が出ます。既に低い介護職の給料が、さらに下がることは避けたいところですが、現実的には厳しい状況になる可能性があります。
Q5. 国の改正は避けられないのか?
A. 政府の方針が決まった以上、2027年の導入は確定的と見られています。ただし、実装段階で調整が入る可能性もあります。業界からの意見や実務的な課題が浮き彫りになれば、制度設計が多少変わる可能性もあります。
Q6. 今から私たちはどう準備すればいいのか?
A. 訪問介護事業所で働いている人は、まず事業所の方針を確認することです。管理者や経営層が、この制度改正についてどう考えているのか。その上で、自分たちのキャリアパスを考える必要があります。また、現在の給料の中で、できるだけ貯蓄を増やす工夫も大切です。
私たちの「老後」と結びついている
50代の私たちにとって、この話は他人事ではありません。
自分たちの親が「生活援助が必要な状況」に直面しているかもしれません。同時に、自分たちの老後を考えるときに、こうした制度が自分たちにどう影響するのかも考えないといけません。
介護職の給料が下がれば、私たちの貯蓄計画も狂う。利用者さんの負担が増えれば、自分たちの将来の不安も増す。
これは業界の人間だけの問題じゃなくて、すべての国民に関わる問題なんです。
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まとめ
政府が進める「生活援助の保険外サービス化」は、確かに新しい市場を創出するかもしれません。新しい資格が生まれ、新しいビジネスが立ち上がるかもしれない。
でも、その一方で、確実に失われるものがあります。
訪問介護事業所の経営安定性。介護職の雇用と給料。そして何より、経済的に限られた高齢者の「生活を支えるサービス」です。
制度改正は、すべての人に等しく影響を与えるわけではありません。経済的な余裕がある人と、ない人で、大きな差が生まれます。
現場で働く私からすると、本来あるべき介護制度は、「その人の生活全体を支える」ことのはずです。身体介護だけでなく、生活援助も含めて。
2027年に向けて、この制度がどう着地するのか。私たち現場の声が、本当に反映されるのか。同じ50代として、同じ親を持つ世代として、目を離さずに見ていく必要があると思います。
参考資料:
– 政府日本成長戦略会議の資料 (#)
– 厚生労働省介護保険制度改正情報 (#)


